フランス革命と貨幣観の革命【佐藤健志】
佐藤健志の「令和の真相」30
◆貨幣化の決定的瞬間
やがて決定的瞬間が訪れる。
『新訳 フランス革命の省察』の終章「フランス革命が残した教訓」から、該当箇所をご紹介します。
【各地の徴税官が、金貨や銀貨で税を受け取ったくせ、国庫に納める段になるとアッシニアを使っている。そう報告を受けて、ネッケル財務総監は愕然となった。】
ネッケル総監、議会にたいして「正貨で受領した税金は、正貨で国庫に納めるように」という指示を出すよう要望します。けれども、そんなことをしたらアッシニアの価値はいよいよ暴落してしまう。
【議会は腹をくくった。アッシニアによる税納入を許可することで、自分たちが刷った紙切れの信用をわずかでも高めることにしたのだ。同時にハッタリだらけの宣言を口々にぶちあげる。金貨・銀貨とアッシニアは、価値の点で何の違いもない!】
これは、きわめて重要な意味を持っています。
文庫版『新訳 フランス革命の省察』の解説も書いて下さった中野剛志さんの著書『目からウロコが落ちる奇跡の経済教室 基礎知識編』(KKベストセラーズ)から引用しましょう。
【現代の現金通貨は、貴金属との交換が保証されない「不換通貨」です。では、その現金通貨は、なぜ貨幣として流通しているのでしょうか。(中略)私が最も有力だと思うのは、「通貨は、納税の手段となることで、その価値を担保している」という説です。この説を採用する経済理論は「現代貨幣理論」と呼ばれています。】
つまり貨幣は、納税の義務という「借り」を清算するのに使える借用書だから、特別な価値を持っているのです。
政府の発行した借用書(=政府の借り)をもって、税負担(=政府への借り)を相殺するわけですね。
納税に用いることが許可された時点で、アッシニアの貨幣化は完成したと言えるでしょう。議会が「金貨・銀貨とアッシニアは、価値の点で何の違いもない!」と宣言したのも当たり前。
はたせるかな、1790年9月、アッシニアは正式に紙幣となりました。それまでつけられていた利子は、この時点で廃止されています。
残念ながら革命政府は、貨幣発行にあたって維持すべき信用、すなわち「財やサービスの提供を受ける権利の総量」と、「提供可能な財やサービスの総量」の間のバランスを保つことができませんでした。革命を抑え込もうとしたヨーロッパ諸国を相手に戦争を始めてしまったこともあり、アッシニアは数年のうちに紙切れとなってしまいます。
しかしそれは、フランス革命において生じた「貨幣観の革命」の意義を否定するものではありません。現代貨幣理論の正しさは、230年前、すでに証明されていたのです。
ひるがえってわが国は、21世紀になっても、商品貨幣論の発想を脱却できず、新型コロナのパンデミックという危機的事態においてすら、財政出動(=思い切った貨幣の発行)を渋るありさま。
フランス革命政府のレベルにさえ達していないと評さねばなりません。
中野さんは『フランス革命の省察』について、「『現代日本の省察』と言っても過言ではあるまい」と述べていますが、この革命から学ぶべきことは、今なお沢山あるのです。
(了)